コウシュ・ノイエ

道々82号線は札幌市中心部の渋滞を避け、西区と南区を繋ぐ迂回ルートになっていて、沿線に採石場もあることからトラックや乗用車等の交通量が多い路線である。敷地はこの騒がしい路線を前面道路とし、両隣は住宅に挟まれるという、一見都市的環境にあるものの、付近を流れる河川の蛇行により背後だけは湿地と山林という恵まれた自然環境に面している。

こうした『差を持った』周辺環境と、住み手のライフスタイル(夫の趣味はコントラバス、妻の趣味はピアノ。2人の幼い女児に手がかからなくなれば、こぢんまりしたピアノ教室を開く予定。)、そこで発生する音や熱などの内部環境とを、少ない予算のなかでどのように関係付けていくかがこの住宅のテーマであった。

予算の都合上、その関係性を設備機器や特別な材料などで解いていくのではなく、シンプルなプランとして形にしようと考え、太陽光や敷地背後の自然環境と積極的にかかわりを持とうとする『攻めの場』を設定し、そのエリアを『守りの場』でコの字型に取り囲むことにした。

『攻めの場』は玄関風除引戸やデッキに面した木製サッシュなどの建具類を開閉することで、使用目的に合った広さ、季節ごとの広さを得ることができる。採光は敷地背後の林に面した大開口とトップライトから得、夏季にはこれらが開閉することで川からの冷涼な空気を複数の吹き抜けを通じて循環させている。冬季はこの吹き抜けを利用して1階の床暖房のみで2階暖房までをまかなう。

『守りの場』には、収納や洗濯室、便所などが収められている。ここは『攻めの場』の熱環境に対する緩衝帯であり、建物短辺方向の筋交いが集まる構造帯であり、前面道路からの騒音を隔て、同時に内部からの楽器音が近隣に漏れるのを防ぐ防音帯にもなっている。赤錆色の外壁は、補色関係によって背後の緑と建物とを互いに引き立てあい、周辺が白一色に染まる冬季においても『帰る場所』の存在を子供たちに向けて発信する。

撮影:酒井広司  Photo: Koji Sakai